『とある飛行士への追憶』感想


『とある飛行士への追憶』(著:犬村小六)(まんが王倶楽部)


流民の飛行士に与えられた任務は1つ、次期の皇王に嫁ぐ貴族の娘を偵察機の後部座席に乗せて制空権の握られた海域を単独横断。本来出会うことすら無いはずの二人。だけど出会ってしまい身分違いの恋に落ちてしまう。思わず溜め息が出てきてしまう程の設定の美しさです。
そしてあまりに魅力的なヒロインファナ。最初は誰の手にも触れられないような宝石として、やがては恋を知った普通の女の子へとなってゆく様への描写の丁寧さ。私は100ページを超えたあたりでどうにってしまいそうでした。そんなファナの様に手の届かない娘に出会ってしまったら徹底的に無視するか、誰の手にも届かないように壊してしまいそうです。
叶わない思いに身を焦がし葛藤する飛行士シャルルと、終わりの見えている時間を直視したくないファナの内面もよく書かれていました。もし私が偵察機サンタ・クルスだったら、二人を誰の手にも届かないところへと連れ去ってしまいたい、何度そう思ったことか。でも操縦桿を握るシャルルは進路を決して変えないでしょう。
ラストのダンス――お別れのやり直しにはただただ感無量でした。
ファナが終戦を締結したのはきっとシャルルへの愛です。優しいシャルルが人を撃たなくても自由に空を飛ぶ為に。願わくば歴史の影で、ファナが大人の笑顔でシャルルと再会していますように。